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心を種として



007、揺 ~いきることと死ぬこと

ブランコを揺らすくさりは僕たちを地上へ繋ぐくさりでもある  かっぱ
天まで飛べないふしあわせなしあわせ。

残された時間の中で僕達は何度世界を揺らせるのだろう  松本響
たとえ小さくても、揺らせるものならば。

窓際のパキラが緑の葉を揺らし生きたいと云うしにたい朝に  なかた有希
自分にない生命力に励まされたり、嫉妬したり。

揺れたくて揺れている水 ちぢまつて 表面張力たのしんでいる  斉藤そよ
ちゃぷん、と滴たちの笑い声がきこえる。

さみしさになまえはなくて今きみの窓のむこうに揺れている花  飯田篤史
音も鳴く揺れる、きっと一輪。

ベランダで揺れるタオルや靴下といっしょに空に帰りたいです  なかはられいこ
ハタハタ揺れて陽に透けるものたちの幸せそうなこと!

ピカソのゑがくをんなの尻の曲線が揺れやまざるなり 青きデッサン  寒竹茄子夫
一本じゃないラインが振動しているように見えて。

ちょっとだけ楽しそうだね 動揺をして騒ぎだすときのあなたは  しょうがきえりこ
だって楽しまなきゃ、それも人生のうちだもの。

肋骨のなか守られているものの全てを揺らして子はバッハ弾く  フワコ
小さないのちの全身全霊。

澄み渡る青い月夜のすすき野の 揺れていようと諦めがつく  けこ
綺麗に揺れる様を見たら、それはそれでいいじゃないかって思ったんだ。

死んだ蚊を包むティッシュの白ささえ揺らす私の息を許して  徳田ゆきこ
生きている自分が奪ったいのちへの罪悪感。
# by sorano-anata | 2006-11-12 19:20

006、自転車 ~みえないちから

自転車を漕ぎながら吹く口笛は遠いだれかに呼ばれるようで  佐原みつる
音が遠のくから他所からの音に聞こえるのか、それとも口笛自体が呼びかけへの返事なのか。あるいは両方かもしれない。

自転車で突っ切る 風のはかなさをすくえないのに両手をのばす  末松さくや
凄く好きです。目に見えないようで見えるような感覚は確かにあって。だから手を伸ばさずにはいられなくて。

自転車を漕ぎだす瞬間とうめいな羽根がにょきにょき背中からでる  みあ
自転車と合体して、あたらしいイキモノになる。

自転車と私がすこし死んだので夕陽はとてもあかいのでしょう  笹井宏之
なにがどう、と言えないのだけど、凄く気になる歌。

自転車を漕ぎ初むる足大地とも空気ともつかぬ手ごたへのあり  小早川忠義
これもとても好きです。自転車を漕ぐとき、私もそう感じます。

自転車をひきずる少女 ゆうぐれは誰の肩にものしかかるもの  cocoa
ゆうぐれの重みはその日一日ぶんの重み。
# by sorano-anata | 2006-11-12 18:29 | 鑑賞~100首題詠

005、並 ~景色

並木道 カプセルの中にいるような 幸せなふたり壊したいけど  草野つゆ
道をふさいでいるから? ううん、そうじゃないんだけど。

夕暮れの水は重くて父と子を並べて叱る背を撓めつつ  水須ゆき子
水の重量が変わることを知っている母であり妻。

ピンクならひとりぼっちにならなくてすむの並んだ女の子 春。  ハナ
みんなと一緒で安心したい、「女の子だもの。」

向き合ってたった二人で七並べやってるような会話じゃないか  おとくにすぎな お互いに下らなさ過ぎると知っているはずなのに。

これからもわたしのうでであるはずのうでが前へとならって並ぶ  末松さくや
「うで」はたぶん、きっと「わたし」の意思で動いている、「わたし」のうでのはず。

薄紅が壊れぬようにふしだらに桜並木をふわりと歩く  新藤伊織
ふしだらなのに天女のような。

人並みの女のやうな顔をした歌が詠みたい午前十二時  理宇
作りながら、自分をつくっているような、そんな気がする魔法の時間帯。

朔風に金色(こんじき)の服はらはらと脱がされてゐる公孫樹並木は  今泉洋子
このうえなく優美なストリップ。

並木道 光と影の縞を抜け青の下にぞ風の生まるる  あめあがり
すきだなぁ、これ! 生まれた風が撫でるものも、いのち新しくなる気がする。
# by sorano-anata | 2006-11-12 18:20 | 鑑賞~100首題詠

004、 キッチン ~「料理」の本質

殺戮の記憶のどかに真夜中のキッチン低く笑い出したり  水須ゆき子
キッチンにラブラブな新婚さんがいちゃついているようなイメージを抱いていたので、冷水を浴びたような気分になりました。なんて甘っちょろかったんだろう、私。
しかも、笑うキッチン。「殺戮」「真夜中」に怖いイメージを、でも「のどか」という矛盾も見せつつ、「低く笑い出」すあたりは、ホラーなようでコミカルにも思う。

なげつけて死ぬはずだったものたちもやわらかく煮る白いキッチン  末松さくや
「なげつけて死ぬはずだったもの」という捉え方に心惹かれました。
あと、「白」という無機質な印象を与える色に、淡々と命を扱う部屋の透明感を感じました。

もうなにも切るものがないキッチンに水道水がぽたぽた落ちる  みち。
合法的に切り刻む空間。したたるのは本当に水道水か。

明るくて清潔なキッチンがいい 骨をつぎつぎ飲み込めるよう  西宮えり
これも怖い、と思った。さわやかでさわやかで軽やかな殺戮。

キッチンで今煮てるのは塩味の君の体だ さあめしあがれ  しょうがきえりこ
魚が急になまなましく、ともすれば銀の曲線が色っぽく見える。

陽だまりの匂いのひとたちキッチンの重さや脆さを知らないでしょう  くまのこ
ドキリ、とした。皆様の作品を拝見するまで、キッチンに陽だまりの意識しかなかったし。
# by sorano-anata | 2006-09-29 20:24 | 鑑賞~100首題詠

003、手紙 ~そこにある言葉

砂浜にこわれてしまったきみがいて砂に手紙をずっと書いてる  aruka
波の音がつづく限り、きみはそこにいるのだろう。

菱形に折られた手紙をほどきゆくときめきに似てそこまで春が  五十嵐きよみ
手紙をひらくときの高揚。原点を思い出す。

あたたかい言葉まみれの決別の手紙ちいさくちいさくたたむ   田丸まひる
「言葉まみれ」なのが逆に痛い。破きも捨てもしないで、「たたむ」のだ。

木漏れ日をまぶした手紙を送るからきっと少しはあたたかいから  フワコ
「から」の繰り返しがドラマのセリフのように耳に残った。印象派の絵のように、音も温度も切り取った手紙。

しあわせを綴っただけの手紙なら悲鳴をあげて破かれてゆけ  わたつみいさな。
下の句に釘付け。堂々とした信念のようなものを、いまのわたしは感じる。

ただの紙 ただの手紙だ 私ではない誰かへの愛があっても  しょうがきえりこ
重たい紙きれ、燃やしても何かが残りそうな紙きれ
# by sorano-anata | 2006-09-29 20:04 | 鑑賞~100首題詠


題詠に挑戦中。初心者でも頑張りまする。

by sorano-anata
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遅ればせながら、自宅を作りました(笑)。題詠以外の拙作を載せております。
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