殺戮の記憶のどかに真夜中のキッチン低く笑い出したり 水須ゆき子
キッチンにラブラブな新婚さんがいちゃついているようなイメージを抱いていたので、冷水を浴びたような気分になりました。なんて甘っちょろかったんだろう、私。
しかも、笑うキッチン。「殺戮」「真夜中」に怖いイメージを、でも「のどか」という矛盾も見せつつ、「低く笑い出」すあたりは、ホラーなようでコミカルにも思う。
なげつけて死ぬはずだったものたちもやわらかく煮る白いキッチン 末松さくや
「なげつけて死ぬはずだったもの」という捉え方に心惹かれました。
あと、「白」という無機質な印象を与える色に、淡々と命を扱う部屋の透明感を感じました。
もうなにも切るものがないキッチンに水道水がぽたぽた落ちる みち。
合法的に切り刻む空間。したたるのは本当に水道水か。
明るくて清潔なキッチンがいい 骨をつぎつぎ飲み込めるよう 西宮えり
これも怖い、と思った。さわやかでさわやかで軽やかな殺戮。
キッチンで今煮てるのは塩味の君の体だ さあめしあがれ しょうがきえりこ
魚が急になまなましく、ともすれば銀の曲線が色っぽく見える。
陽だまりの匂いのひとたちキッチンの重さや脆さを知らないでしょう くまのこ
ドキリ、とした。皆様の作品を拝見するまで、キッチンに陽だまりの意識しかなかったし。